まちぽん!

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飲み会的なお話

夕日が沈み、一日の終わりが始まる。

街並みは喧騒に彩られ、仕事疲れを餌に活気付く。

「かんぱーい!」

テンプレートな掛け声で口火が切られた。
欲望渦巻く『飲み会』である。

おそらく管理職であろう白髪混じりの男性の隣に赤い髪の女性が座っている。
というより、座らされている。

いつもの無愛想さから想像もつかないような張り付いた笑顔でみごとに応対する様は、料金が発生しているとしか思えない。


一区切りついた後、彼女は、少し離れた顔馴染みの男がいる卓に座った。

「おつかれさん。」

男は、女を労うように水を差し出した。

「久々にめんどくさかったわ…」

差し出された水を飲み干し、煙草に火をつける。
一服を決め込む女に、男は聞いた。

「でも、よく来てくれたね。上司の無茶振りだったし、断ってもよかったんだよ。」

「まあ、たまにはな。最近こーゆー場もなかったし、家帰ってもポケモンやるだけだ。」

「寂しい…」

「うるせーな。燃やすぞ。」

先程の張り付いた笑顔は幻か、豹変した女を男は面白がっている。

「君、上手いよね。酔っ払いの相手。所長はご機嫌だったよ。」

「社会人の嗜みだ。あれぐらいはみんなやるだろ。」

「定職ついてないけど浮世離れしてないのすごいね。
面白くて食が進んだよ。」

「あたしをオカズにしたのか?!」

「言い方が悪い。声が大きい。」

「ていうかお前、飲み会の席で一人で飯食ってんのか。」

「いつもは君と同じようなことをしてるよ。おかげで静かに過ごせた。」

「想像できねえな…」

「表情はほぼ変わらないけどね。」

そう言って男は残りの酒を飲み干した。

「飲み物何かいるかい?」

「じゃあスクリュードライバー。」

「すいません。シャンディガフスクリュードライバーお願いします。」

スクリュードライバーって聞くとさ、ハガーを思い出すよな。」

「だから何…?」

「いやほら、味とイメージが一致しねーなって。」

「半裸の市長と一致する味ってなんだい?」

いつも通りの、わけのわからない会話が続いた。

その奥で、先程の白髪混じりの男と、その部下が話している。

「所長、ロジャーの奴、いい感じじゃないですか?」

「うん。いやぁ…しかし無理矢理だったから、心配したけどね…」

「営業としても優秀ですし、あいつはこれぐらい上手くやりますよ。」



事の発端は、この日の昼前だった。

「所長、この稟議書お願いします。」

ロジャーが、所長に書類を提出した時だった。

「うん。」

「じゃあ、昼飯ついでに外回り行ってきます。」

「ああロジャー。今日飲み会やるから。」

「不参加でお願いします。」

「一応考えるふりぐらいしようね。君いっつも不参加だからたまには出なさい。」

「営業職なんて、飲み会は断るぐらいがちょうどいいんですよ。
 律儀に全部出てたら胃と肝臓と精神をやられます。」

「所長を前によくも堂々と言えるね君は。まあいい。今日ぐらいは出てくれ。」

仮にも所長命令である。ロジャーは諦めて首を縦に振った。

「今日だけですよ?」

「君、どんどん態度大きくなるね。まあいい。
 そこで、君に頼みがあるんだけどね。」

「嫌です。」

「とりあえず聞いてくれ。君、知り合いに女の子はいないかな?」

「いません。」

「例えば、赤い髪で背が低い不愛想な女の子とか。」

予想外の言葉に、ロジャーは顔色が変わる。

「…います。」

「いや、別にさぼってたのを怒るわけじゃなくてね。君は売上もいいし、お客さんからの評判もいい。
 仕事をした上でのことだから何の問題もないんだが…」

バレとるがな!とロジャーは何故かなまりながら思った。

「この前見たとき、二人とも楽しそうだったからね。老婆心だよ。」

「大きなお世話なのですが…」

「まあ、君もいい年だ。家庭を持って一層仕事に力を入れてくれれば、会社としてもメリットがあるんだ。」

結婚を考えた事のない男には耳が痛い話である。

「そんなに難しいことじゃないよ。
 頼みというのは、仲良くしているその子に言ってみるんだ。『会社の上司が飲み会に女性を連れてこいと言っている』って。」

「なんですかそれ…さすがに来ないでしょ。」

「もちろん無理強いはダメだよ。断られたら断られたでいいから。誘ってみるだけでいい。
 どうせ今から会いに行くんだろう?じゃあ、いい報告を待ってるよ。」



(なんて言われて…言ってみたらまさか本当に来るとは。)

「―でさぁ、マッド・ギアって結局コーディーが逮捕された後どうなったんだっけ?」

「え?…ああ…マッド・ギアは知らないけど…なんか色々あってコーディーは市長になったって聞いたよ。」

「あ、酒なくなってんね。何飲む?」

「僕はそんなに強くないし、明日も仕事だから水でいいよ。」

「じゃああたしも水でいいわ。そろそろお開きだろ?」

「多分ね。」

「ロジャー。送ってあげなさい。私達も片づけて締めるから。」

「所長。」

「ああ、そうですね。送ってもらおう。
 所長さん。タクシー代とかいただけます?」

「堂々とねだるね君。」

「使えるものは使う主義ですから。女にねだられたら出してくれるかなぁと思って。」

「なら、ロジャーに渡しておくから。」

「それじゃお釣りがあたしのにならないじゃないですか!」

「全部正直に言われるとかえって清々しいね…」

ひとしきり終え、渋々タクシー代を出した後、所長は店を後にする二人を見送った。

「うん。若いっていいね。いやあ、喫煙所であの子達が駄弁ってるのを見つけてよかった。」

「所長、さすがに露骨すぎるのでは…」

「途中から早くくっつけと思って雑になってしまったよ。
 結婚してくれたら面白いし、ロジャーのゴシップはレアなんだ。
 明日が楽しみで仕方ないよ。朝イチから全員でニヤニヤしようね。」

この人にネタ握られないようにしよう、と部下は慄いた。

そして、二人きりにさせられた側は、
『タクシー代浮かせてゲーム買おうぜ!』という女の提案で歩いていた。

「会社勤めって大変だよな。上がやれっつったらやんなきゃなんねーもんな。」

「そうだね…今日は迷惑かけてすまなかったね。」

「来たのはあたしの意思だからな。たまにはいいよ。」

結婚など考えた事もない男には頭の痛い状況である。
普通に送るだけというわけにもいかず、かといってこの関係を進めたくはない。

「…」

「おい、何ぼーっとしてんだ。」

「…ああ、久々に飲んだから…」

「営業がそんなことでいいのか。樽ごと飲んで来い。」

「死ぬから、絶対にやっちゃダメだよ。」

何かを見透かしたように、女は言った。

「…今日ってさ、全部あのオッサンの差し金だろ?」

女の勘というのか、少し男は驚いた。

「…気づいてた?」

「当然。『上司に女連れてこいって言われた』にしちゃ、やけに開放早かったしな。
 お前こそ気づいてたか?周りの社員共がニヤニヤ見てたぞ。」

「…それは見ないようにしてた。」

「あれだろ?婚期がどうとかでいい人見つけろみたいな。結婚すりゃ仕事も頑張ってくれて、退職しにくくなるからな。
 実際同じ能力なら既婚者の方が出世しやすいみたいだし。」

気づかれている事に、むしろ男は安堵した。

「そこまで察してくれるなら助かるよ…本当に迷惑かけたね。」

「まあ、次もしあのオッサンに会ったら適当に話合わせとくわ。ホテルに連れ込まれたっつって。」

「それは助か…らない。」

「んじゃ、あたし今日はガトリンの家に泊まっていくから。この辺でいいや。」

「そうか…ありがとう。また明日。」

「おう。またな。」

そう言うと、酔っているはずの女は、足早に去っていった。
やがて女が見えなくなった所で、ポツリと呟いた。

「今は、この距離感がいいんだよなぁ…」

夜の風が、男を冷ました。


(誘われた時から、こんなことだと思ってたよ。
 それでもあたしは来たってことの意味…わかってんのかな?)

男が見えなくなった所で、女も夜風に当たっていた。

(あのオッサンの思い通りになってる気がすんなぁ…クソ、不覚をとった。)

「今は、この距離感でいいのかな…?」

夜の風は、女を冷やした。